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ルーツ5

待ち合わせの改札、


さよならも言えずに別れてから十数年、それ以上の時を経た父に、気付けるだろうか…


そして、父は私に気付いてくれるだろうか…


そんな不安は、



遥か向こうから、足早に歩いてくる初老というにはまだ失礼な年齢かと憶測出来る、


一人の男性が視界に入った瞬間、


吹き飛んだ


父だっ!!

全力で駆け寄る私を、


満面の笑顔で抱き締めてくれたその男性こそ、父だった


抱き合って、また嗚咽をあげて泣く私


泣いてばかりの私



そんなつもりじゃなかった

父に、


『綺麗になった』


と言ってもらえるように、泣かないでおこうと決めていたのに


父は、面影さえ残っているものの、あの頃の繊細な儚さを持った父とは思えないほど、おおらかな面持ちでニコニコしながら


『来てくれてありがとう』

と言ってくれた


一緒にご飯に連れて行ってもらい、


離れていた十数年を埋めるかのように話した


私の父は、ただ家族という形態には向かなかっただけで、相変わらずユーモア抜群の、文学が大好きな人だった


夢に描いていた通り、文字を紡ぎながら暮らしていた


『あの頃は、どうかしてて…すまん…


お前らが出ていってから色々探したけど見つからないから、


きっとどこか遠くに行ってしまったんやとばっかり思ってた…


でも、一日も忘れた事はない。後悔ばかりの年月だったんや…』


『わかるわ…


そんな事もあるよな…


こっちこそ別れも言えずにお母さんと出ていってごめん…


想っててくれてありがとうなぁ』



父に対しては、もう今会えているだけで充分、私の心の奥につかえていたものがスッと動いていくのがわかった


それから、父の作品を見せて貰い、そこいら中を案内して貰い、


そんな日に限って、
時間は、悪戯に、瞬く間に過ぎ去っていく



6へ続く


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2012-09-13 : 風俗 : トラックバック : 0
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